スタンダードは古典落語と似ている。筋書きもサゲも知っているのに、「そう来ましたか」と思わずニンマリしてしまう。まさに演者のセンスとテクニックで聞かせる分野だ。
キース・ジャレット(1945生USA)は、若い頃は前衛傾向のバンドと即興ソロライブで一世を風靡した天才ピアニスト。1983年にスタンダーズ・トリオを結成してスタンダード曲の演奏に取り組み、以来活動の中心となっている。
キースの演奏は展開が独特で、「何の曲?」と分からないメロディーを弾き出すが、最後はおなじみのフレーズに収束していく。自由にメロディーを遊んでいるが、フリーにならずに、一定のコードと曲想が流れている「音の感性」がキースの魅力だ。
このトリオ、ゲイリー・ピーコック(b)はメロディーを弾いて絡んでくるし、ジャック・ディジョネット(ds)はビートを守りつつもリズム感がポップで新しい。そして何よりキースがいかにも楽しそうに演奏しているのが良い。
彼らのスタンダードへのアプローチは、ジャズ界においても多くのプレーヤーに驚きと影響を与えたという。
これはフランスで行われた雨の屋外コンサートでの録音だが、コンディションの悪さなど全く感じさせない。
まさに名人芸で古典を楽しませてくれる。
たまには、落語のように正面に座って。
(2002録音)
Comments